俐楽帖

或るファンの雑感

ディック・バトンと羽生結弦

記事掲載先:日刊スポーツ

大見出し:羽生にV2提言

小見出し:バトン氏 伝える66年前の失敗

紙面:2017/9/5 1面

 

ミドルネームのTotten(トットン)は名なのか姓なのか。

「リチャード・トットン・“ディック”・バトン」と表記されているので、名の方だと思えなくもない。

 

9月2日、日刊スポーツが平昌五輪まで、毎週火~土曜にフィギュアスケートをテーマに連載するとツイート。週5ってすごくね?過去記事の使い回ししないと色々大変なんじゃないかな。しかも一面カラーで来たよ今回。


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記念すべき最初のテーマは「ディック・バトン」。65年前の1952年オスロ五輪のフィギュアスケート男子シングルで五輪二連覇を果たした人。御年米寿。

男子は彼以降、悠に半世紀が経った今も五輪連覇達成者はいない。(因みに女子は1988年カルガリー五輪のカタリナ・ヴィット以降不在)

その偉業に現在王手をかけているのが日本の羽生結弦、ということで偉大な先人にスポットが当たったと。

 

取材・構成が高場泉穂なので「油断禁物」を念頭に置きながら読む。この人は無難なことを書いたと思えば、さらっと印象操作をした前科があるためだ。記名ってこういう時に便利。

一番上に男子歴代金メダリストの一覧表が載っているのだが(このデータはWikipediaでも閲覧可能)、ロシア(ソ連、CIS時代含む)に1992年アルベールビル五輪のぺトレンコまで金メダリストがいなかったことに改めて驚く。その後2010年バンクーバー五輪ライサチェク(アメリカ)が取るまでは、選手は代われどロシアの独走だ。

 

中央より左に羽生のこれまでの戦歴、右にバトンの戦歴。

バトンは五輪初制覇直後の世選で初優勝。以降、世選を5連覇している。一方、羽生も五輪初制覇直後の世選で初優勝。こちらは五輪直前の2013年GPF以降、GPFを4連覇中だ。(念のため書いておくとGPF及びGPSは20世紀末に始まった国際大会のため、バトンの現役時代には無い。)

五輪初優勝後に世界規模の大会で連覇記録を伸ばしているという共通事項もあった、と。戦歴という観点においては、羽生にとって最も境遇が近い人物といえる。

バトンは3Lo、羽生は4Loの初成功者ということで、2人の共通項では「10代の男子五輪金メダリスト」と同時に「Lo」がフォーカスされるが、バトンは2Aの初成功者でもある。彼はジャンプの開拓者でもあったわけだ。今後羽生が4Aを試合で成功させたなら、「A」も共通項として加わるだろう。

 

羽生の写真はソチ五輪のメダルセレモニーで金メダルを掲げているもの、バトンのは五輪演技中の写真が2枚(上が1948年サンモリッツ五輪、下がオスロ五輪の時の)。

バトンのこの衣装で現在の大会に出たら「休日に家族と出かけるお父さんの恰好か」とファンが嘆きそう、なんて些末な戯言。当時の製氷及び整氷技術、ブレードであんなに滑らかに動かれたら。今回の特集に際してバトンに注目した人のツイートから、現役時代の貴重映像も拝見できたが、当時のルールを細かく知らなくても、これが当時の世界一であるとは何となく納得できるものだった。

 

本文は、案の定と言うべきか、過去の記事の転用が見られた。尤も週5連載でフィギュアスケートのみをテーマにするのに、全文オリジナルなど端から期待していなかったので「矢張そうか。」と思ったぐらいだ。

冒頭は、今年の世選直後のもの。世選で王座奪還を果たした羽生が一夜明けた会見で、バトンが五輪プレシーズンの世選で(も)優勝したことについて言及し、「今回の優勝はすごくいい験担ぎ」にもなったことを語った件だ。

そして内容は、今年6月、バトンへの取材に移る。

バトンが羽生に向けたメッセージは(以下英文は書き起こし)

For Yuzuru

Enjoy the Olympic Experience

Relax + Have Fun !

  Dick Button

  June 13. 2017

  New York City

二度目の五輪では、練習のし過ぎでピーキングを誤ったという本人の経験則では「Relax」に比重がかかっているようだ。

バトンはこの時の五輪金メダルはしまったままにしているそうだが、羽生もいつか現役を退いたら、今は「臥薪嘗胆」と部屋に出しておいている銀メダル群を片付けるのかな、なんて思ったり。

また、バトンが3Loの初成功者だとは知っていたが、それが同時に3回転ジャンプの初成功例になったことまでは知らなかった。だがスポーツ紙が書いているので、他のここより信頼に値する情報源(複数のフィギュアスケート専門誌など)で確認するまでは「保留」にしておこうと思う。それにしても、4回転ジャンプの成功順がT、S、Lz、F、Loとなったのとは対照的だ。

記事自体は、一部とはいえバトンの独自インタビューが挿入されていること、特段の印象操作はなされていないのでよかった。

翌6日は9面掲載とはいえ、盛大に自身の黒歴史付きでやらかしてくれましたがね!